発達障害のある子もない子も受け入れるインクルーシブ保育
【こども家庭庁】「保育所と児童発達支援等の一体的な支援(インクルーシブ保育)」とは
こども家庭庁が推進しているインクルーシブ保育とは、障害をもつお子さんと障害を持たないお子さんが同じ空間で一緒に学ぶ保育教育のことです。
令和4年11月30日に児童福祉施設の設備及び運営に関する基準などを一部改正する省令が交付され、保育所と児童発達支援事業所が併設している場合、必要な保育士や面積を確保するにあたって保育士の交流や保育室の共用などが可能に。これにより保育所と児童発達支援事業所それぞれに通っているお子さんを一体的に保育できるようになり、園での取り組みの幅が広がることが期待されています。
そもそもインクルーシブ保育とは?
インクルーシブ保育とは、障害の有無や年齢、国籍に関わらず、さまざまな背景を持つお子さんを同じ空間で受け入れる「インクルーシブ教育」を保育に取り入れたものです。
ただ単にすべての子どもが同じ場所で教育を受けるというものではなく、インクルーシブ保育ではマジョリティとマイノリティのどちらの立場も重視しながら、1人ひとりの個性や多様性を尊重した教育を行っていきます。海外ではインクルーシブ保育が積極的に取り入れられており、福祉大国として名高いスウェーデンにおいても就学前の幼児教育はインクルーシブ教育が基本です。
日本では、誰もがお互いの人格と個性を尊重し合って、多様性を認め合える全員参加型の共生社会の実現を目指し、こども家庭庁が幼児期からのインクルーシブ保育の拡充を推進しています。
インクルーシブ保育のメリット
障害の有無や年齢などを関係なく受け入れるインクルーシブ保育では、自分とは立場や境遇などが異なるお友だちと一緒に過ごすことになります。それにより多種多様な人がいることを受け入れるきっかけとなり、さまざまな立場のお友だちとの関わり方を学ぶことができるでしょう。
お互いへの理解も深まるので、相手のことをよく知らないことから生まれる偏見や差別意識をなくすことにつながるメリットもあります。また、障害を持つお友だちが不自由な思いをしていたら自発的に手を差し伸べるなど、立場や境遇の違う子との交流を通して思いやりの気持ちを育むことも期待できそうです。
成長段階や考え方の違いなどでトラブルが発生することもあるかもしれませんが、すれ違いや思うように進まないことなどを経験することで、状況に応じて対応できる柔軟性も得ることができるでしょう。
インクルーシブ保育の注意点
インクルーシブ保育を実践するうえで注意したいのが、マイノリティ側のお子さんが周囲のお友だちと自分を比較して、劣等感を抱く可能性があることです。また、多種多様な子と一緒に過ごすことに慣れず、不安な感情からくるトラブルが多発することも考えられるでしょう。
保育士側にも障害を持つお子さんに対応するための専門的な知識やスキルが求められるほか、多様性への対応や学習時間などの負担も大きくなります。インクルーシブ保育を導入するのであれば、保育士の数や体制などが十分に整っているかどうかをよく確認したうえで検討する必要があります。
インクルーシブ保育の課題
国がインクルーシブ保育を推し進めるようになった一方で、インクルーシブ保育を実践している園の数は少なく、社会に浸透するにはまだまだ時間がかかりそうです。インクルーシブ保育が浸透しない理由としては、インクルーシブ保育に求められる専門性の高い知識やスキルを持った保育士の数が十分でないことも考えられます。
インクルーシブ保育はお子さんへの十分なサポートのもとで行う必要があり、それができていないと多様性を認めるはずがマイノリティ側のお子さんの劣等感を助長しかねません。また、成長が早いお子さんにとっては保育内容に物足りなさを感じ、成長が妨げられる恐れもあります。多種多様な子が同じ環境にいるなかで、1人ひとりに対してどのように適切な支援を行っていくのかを考えていかなければいけません。
そのほかにも、保護者の理解を得られるかも、インクルーシブ保育を実践するうえでの課題となります。マイノリティ側への配慮を特別扱いだと思われたり、通常保育に支障をきたして我が子の成長が妨げられるのではとネガティブなイメージを持たれたりしないように、保護者に対して十分な説明を行う必要があります。
これらの課題をいかに解決していくかが、日本でインクルーシブ保育が浸透していくかのカギとなるでしょう。
インクルーシブとよく似た用語を解説
インクルージョン
インクルージョンとは「包括」「包含」などを意味し、ヨーロッパの社会福祉政策の理念をルーツとする言葉です。
1970~80年代のヨーロッパでは、格差や差別により特定の個人・グループが本来受けられるはずの機会や権利を奪われているソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)が社会問題となっていました。それを解決するための施策として「誰もが社会に参加する機会を有している」というソーシャルインクルージョン(社会的包摂)が社会福祉政策の理念として誕生します。
ソーシャルインクルージョンの理念は社会福祉だけでなく、教育やビジネスの領域にも展開することでインクルーシブ教育の取り組みが進むきっかけとなりました。
ダイバーシティ
ダイバーシティは多様性を意味する言葉で、人種や差別、宗教、価値観、障害など異なる属性を持った人々が組織や集団で共存している状態を表しています。
ダイバーシティの考えは、アメリカ国内で行われたアフリカ系アメリカ人による公民権運動から注目されるようになり、現在ではビジネスの領域でもダイバーシティが推進されるように。誰もが働きやすい環境を目指して多様な人材を受け入れることは、雇用対策や競争力の向上にもつながることから、経営戦略の要件としてもダイバーシティの推進が位置づけられています。
日本においては、少子高齢化に伴う労働力の人口減少に対応できるように、人材を確保するという観点からダイバーシティの推進が叫ばれるようになりました。